「くしゅん」
「…風邪ひいたんじゃないですか、さん」
「うん、ひいた」

 少女の名は、というらしい。「らしい」というのは、あの出逢った夜、本人の口から聞いたからである。あれから数週間が経った。彼女は拾われた身であるためあれから万事屋に居付いている。もうすっかり、馴染んだ。
 けほけほ、と咳き込み、うー、と唸る。新八が少し心配そうに見やると、大丈夫と微笑みかけた。よっこいしょ。抱えこむのがやっとの大きなダンボールを持ち上げ、家の外に停まっているトラックの荷台まで運び入れる。それが今日の仕事だった。引越しの手伝い。差して珍しくも無い内容。ダンボールは見かけどおり重く、更にまた大きいので、持ち上げたダンボールの所為でほぼ完全に視界が塞がってしまった。

「ゔー頭痛い…」

 今朝はあまり違和感を感じず、普通に仕事に取り掛かったのだが、完璧に風邪をこじらせていた様だ。やっとの思いでトラックの前までたどり着き、そのままの勢いで―――一度でも止まったら、そのまま動けなくなりそうだったから―――荷台まで歩き、どさ、と音を立ててダンボールを置く。そうすると、空気が抜けるようにしてその場にしゃがみこんでしまった。空を見上げる。中途半端に雲が掛かった、冬空。はぁ。吐息が白く為った。
 不意に、影が掛かった。

「おい。お前だけサボってんじゃねぇよ働け」

 では持てそうに無さそうな化粧台を、神楽と運びながら、いつもの気だるげな声で言う。いや、と後ろからダンボールを持った新八が、を気遣い事情を説明した。(どうやら、風邪をひいているらしくて、)(あぁ?風邪ぇ?)
 化粧台を神楽に任せ(軽々と持っている)此方に向き直る。軍手を外した掌で、の額に触れた。

「!つ、めたっ」
「お前なぁ…昨日の晩、神楽と一緒に長風呂なんてすっから…」
「そ、そんなこと言われても」

―――昨日の晩の間の記憶、無いんですけど。
 後半の言葉は口から出ることは無く、代わりに苦笑が漏れた。銀時は呆れた風に大きく溜息を吐くと、に、懐から万事屋の鍵を出して渡した。「?」を頭上に浮かばせるに、お前は帰れ、と短く言う。

「風邪ひいてんならさっさと帰って寝てろ」
「でも仕事は、」
「病人は寝てろ。居ても邪魔だろーが」

 少し寂しげに俯く。それを見た銀時は、たく、と呟いて頭を掻くと、もう一度、先帰っとけ、と言った。の頭に手を載せる。

「…これ終わったら、なんかあったけーもん作ってやるから」
「!!」





放っておけない
( ホットミルクで ) ( 安上がりだな )








(2009116)