夜、といっても、夜には沢山ある。熱帯夜とか、雪の降る夜とか。そしてこの夜は、月が無い―――要するに、新月、だった。自分の知識では、その原理を導き出すことは出来ないが。徐々に夜に近付いている、それを自分に知らせる窓の外の景色は茜色に染まりきっていて…というか既に深海色が端の方から迫っていた。段々と、日が落ちていく。ふと隣を見ると、は此方に見向きもせず、ただじっと空を見つめていた。
 について、この数週間で分かったことは数少ないが、とりあえず天人だというのは確信している(本人も、大人しく肯定した)。「夜になると、人から猫へ変わる」初めの方こそ驚いたが、今はすっかり慣れてしまった。

「日が落ちるな」
「うん」
「じゃ、また明日の朝な」
「ううん。今日は大丈夫」

 は、と問い返すと、は俺の目を見つめ、そして笑った。

「今日は新月、だから」
「意味分かんねぇぞ」
「月が無いから」
「だから、」

 空が黒くなった。いつもは、淡い光を漏らしながら猫へと変わっていくというのに、今日はなんの変化もない。ね?と屈託の無い笑みを浮かべながら、はくすくすと笑う。

「月光が無いと、私達は猫に為れないんだよ」
「そういうことはもっと早く言えよ」
「だって、聞かなかったでしょ?」





戸惑いは捨てろ
( 自分に言い聞かせる )







(091112)