「政宗、私のこと好き?」
「Ah?馬鹿かお前は。俺は女なんて要らねえって前から言ってんだろ」
「ばーか!誰が恋愛対象って言いましたか!友達としてだよ、と・も・だ・ち!」
「とりあえず、この俺に向かって馬鹿ってほざいた奴は下の下だ。俺とは釣り合わないな」
「出たよ俺様発言。鼻で笑うところがイラッとする」

 平然と言い返したはいいが、生意気な私に政宗は青筋を浮かべると、優しく扱ってあげないといけない筈の少女の頬を遠慮なく引っ張った。(これで顔の形が崩れたりしたらどうしてくれるんだ!)今日は休日、此処は政宗の家。さて、ここで問い。私達は何をしているか。答え、片倉さんの野菜の世話の手伝い。しかも、採った野菜はくれるのだとか。私としては面倒だったのだが、この電話の内容を伝えた瞬間、お母さんは「行ってらっしゃい」としか喋らなくなった。最近は野菜の値段も高くなってきたからなあ。特に、無農薬となるとそれはもう。手伝いさえすれば無料で片倉さんが愛情を込めて作った極上の野菜が手に入るというのが、お母さんには余程魅力的だったらしい。
 しかし本当は出かける予定だったので、そもそも私の服装は畑仕事向きとは言えない。よりにもよって、何故白い服を選んだんだ私。馬鹿にしたように笑いながら、別の服に着替えてから来いよ、と言った政宗に八つ当たりをしたくなったというのは内緒だ。そうこうしている内に気が利く片倉さんが、汚れてもいいやつだからと私に着替えを持って来てくれた。そのシャツとズボンを受け取ると、これ以上片倉さんに(重要)迷惑をかけてはいけない、と部屋を借りて着替え始めた。着替え始めようと、した。服に手を掛けたまま、振り返る。

「・・政宗、いつまで居るの?覗き?」
「Ha!てめえに見て価値のあるもんなんざねえだろ!」
「うわあ腹が立つ!」
「ちなみにそれ、俺が小六ん時のだぞ」
「つまりあれかな?今の私は小六の政宗と同じだと?」

 目元をひくつかせながら言った私に、政宗はというと「小六の俺の方が上だろ!」とそりゃあもう良い笑顔で返してくれた。この何処までも俺様なところが本当にイラッとする。兎にも角にも、非常にイライラしながら政宗の背中を押すと部屋から追い出し、やっと着替えを始めた。すると、驚くことにサイズがほぼぴったり。片倉さん、私の服のサイズを人目で見抜くとは流石。でも何故か許せないのは何でだろう。というか、このシャツに書かれた英文が凄い。何と言うか、政宗らしい。表には「Let's party!!」と、裏には「Are you ready!?」とそれぞれプリントされていた。正直に言うと、恥ずかしい。小学生時代の政宗、よくこんなの着て登校できたな。ふと思ったのだが、幸村は「お館様」とか「甘味」だったりして。想像して、首を振る。ありそうで嫌だ。
 もう着替え終わったし出るか、と廊下に出ると。政宗と目が合い、間。そして大爆笑された。必死に笑いを堪えているようだが、肩が揺れているため丸分かり。この文字なのか?昔の自分の趣味を笑っているのか?さっき、小六の自分の方がお前より上だって私に言っていたのは誰だ。

「くっ・・・justじゃねえか・・っ!小十郎、やるなあいつ・・・・くくっ」
「あ、そこなんだ。昔の自分の趣味を否定してんのかと思った」
「Why?good designじゃねえか。Let's partyとか、いつか言ってみたい」
「・・・・へーえ」
「その服を鼻で笑いたかったら、かすがみたいなnice bodyになってみるんだな」

 生意気な政宗の顔を、いつか悔しさで歪ませてみたいと思った瞬間だった。むすっとした顔を彼から背けると、片倉さんの待つ菜園へと足を進める。そりゃあ、かすがみたいなスタイルに憧れない、と言ったら嘘になる。出るところは出てて、締まるところは締まっている身体。羨ましい、と言ってしまえば羨ましかった。・・・政宗も、やっぱりああいう方が好みなんだろうなあ。自然と漏れた溜息に、慌ててその考えを打ち消した。何考えてるんだ、自分。政宗なんてどうでもいい、関係ないじゃないか。うん、政宗なんか知らない。
 しかし、突然私の顔を覗き込んできた政宗に、やっと落ち着いてきていた頭の中がまた騒ぎ出す。声にならない叫びを上げた私に「人を化け物みてえに・・」と若干不満そうな表情をした政宗。一層、歩く速度を上げた私の少し後ろで、政宗は未だぶつぶつと何か言っていた。早く行かなければ、待たせている片倉さんに迷惑だろう。ますます早歩きになっていた私に、政宗は小走りして追い着くと私の隣を歩きだした。先刻までは鬱陶しい位に散々私を馬鹿にする言葉を発していたのに、ちらちらと私の表情を盗み見ては黙りこくる。これもこれで何か気に食わないものがあって、「何?」と少し苛立ちを含みながら言った。

「・・悪い。言い過ぎた。今更かすがみてえにはなれないよな。無理言った。sorry」
「謝る気無いよねそれ・・・・政宗ってほんとデリカシー無い!嫌い!」
「はあ!?何でそうなんだよ!?意味分かんねえ!」
「私はかすがと違ってスタイルも頭も良くないし、嫁に行けるかも分からないようなブスなんでしょ?それならそう言ってよ!中途半端じゃ同情されてるみたいで余計嫌!」
「・・・お前は、スタイルは良くも悪くもないし、頭はどっちかっつうと悪いし、毒舌だし馬鹿だし。嫁の貰い手も無いな」

 直接言われると、きつい。馬鹿だな、私は。

「まあ、寛大な心の持ち主である俺なら貰ってやっても良いぜ?」


 ――・・・、え?

「っな、んていう台詞を・・・少女漫画か!」
「好きになると、全部いい所に見えてくるんだよな、これが」
「な、ああああ!?」








love is blind
(恋は盲目)




(100410)