こんな気持ち



「別れて下さい」
「分かりやした」
「ありがとう。さよなら」
「こっちこそ」

 終わりは、涙なんて一滴も流れ出てこないくらい、あまりにも呆気無かった。せめて少しでも悲しみが湧いてくるようにと別れ話を花火大会の夜に切り出したっていうのに、私の気持ちはひどく冷め切っていて、冷静だった。今更だけど、本当に私はこの人の事がどうでもよかったんだって分かってしまった。
 やっぱり、人間って怖い。熱ってこんなにもあっさり冷めるものなんだ。付き合って欲しいって言った時は、あんなに真っ赤だったのに。「いいよ」って帰ってきた時は、あんなに嬉しかったのに。

「でも全部、貴方が悪いんだよ。貴方に、好きな人ができてしまったから」

 私の事なんて、この人は初めから好きでも何でもなかったんだろう。それでも付き合ってくれたのは、きっとただの興味本位。恋をしていなくて、好きな人がいなかったから。
 でも今のこの人には好いてる人がいて、出来れば付き合いたいと思ってる。どうとも思っていない私でも、仮にも「彼女」ってことになってる。恋愛をするならこれ以上の邪魔は無い。それを知った私も、急速に冷めてしまった。
 意味なんて、もう無かった。

「わりィな。でも、それなりに楽しかった」
「私もです。また誰か別の人と恋愛をすることにします」

 もう忘れてしまおう。この人の事、全部。そうすれば、きっとこの胸の痛みも消えてくれるはず。次々に上がっていく花火は、私なんかと比べ物にならない位綺麗で、鮮やかで。隣に居た人は、もう居ない。私は、そっと目を閉じた。すると頬を伝う何か。そして心の中に浮かぶ栗色の髪色をした誰か。「ああ、何だっけ、誰だっけ」と、忘れることなんて出来るはずも無いのに、その二つが消えてしまうまで私は何度も繰り返すことにした。
 「誰か別の人と恋愛をする」なんて、出来るはずも無い。私を恋焦がしたのは、貴方一人だけ。








知らなきゃかった




(100811 う/た/か/た/花/火 を何処と無くイメージしてました。総悟が酷い子に・・・)