何時(いつ)からだろう。





戦う度に、血を吐く様になったのは。





何時からだろう。





稽古の度に、泣く様になったのは。












―――今は7月。



病を悟られてから2ヶ月経った私は、ほとんど布団で1日を過ごすようになった。

病の名は、結核。沖田さんのお姉さんと同じ病気だ(もう亡くなってしまったけれど)

皆は、気を使って私に仕事を回さないのだろうが

今の私には、「役立たず」と罵られているように思えていた。


食堂に位行けるのに、怖くて行けない。


愛刀も没収された。


あれは、真選組に来て初めて買って貰った物なのに。










梅雨なんてとっくに過ぎたと思っていたけど、今日は朝からずっと雨降り。

自室の障子の間からは細く白い雨が幾つも降っている。




(真選組は…土方さん達は大好きだ)
――でも此処が怖い、と思うようになった


(もっと、もっと護り戦いたい)
――でも戦う術(すべ)がない。刀がない



(此処でたっぷり寝て……死にたい)
――でも此処にいる理由は、もう…ない



















気が付いたら、私は、寝巻きのまま飛び出していた。

足が地面につく度に水と共に泥が跳ねる。

不思議と、汚れは気にならなかった。

まだ全然走っていないのに息が苦しい。

視界が霞む、着物が濡れる、足が崩れる。

咳が止まらない、喉が…胸が燃えるように熱い。

吐く血の量が目に見えて多くなってきている。

人通りの少ない路地で、倒れた私の身体は弱ってる。

体温が下がってきた(雨水が、冷たいと感じない位)

誰かが近付いてきている(うつ伏せだから見えない)




ッ!!」

(嗚呼、この声は。どうして此処に)

「勝手に出歩くなッ!心配したんだぞッ!?」

(…戦えないから、役立たずだから、出てきたのに)
――本当は、"逃げてきた"だけ。




""と呼ばれたとき、どんなに嬉しかったか!!

貴方が来てくれて、どんなに泣きたかったか!!


あちこち探したのでしょう?方が濡れています。体が冷えておいでですよ。

そう語りかけ、タオルを渡せたらどんなに良いか!!

その黒髪に触れたいのに、何故動かない!?

その顔を見つめたいのに、何故見えない!?

その体を温めたいのに、何故冷えていく!?

私は背負われている。

貴方の"荷物"になっている。

この気持ちは、叶わぬ恋よりも悲しい。




「……ひ、じ…かた……さん」

「あぁそうだ!、もう少しで屯所だ!!」

「ろ…して…おろし、て…くだっ…ん、ぐっ」

「!馬鹿か!今のてめぇじゃ歩けねぇだろ!!」


















―――私が死んだら。




お葬式、みんな泣いてくれるかな?

泣くんじゃなくて、笑って見送って欲しいんだけど…

死後の世界でミツバさんに会えるといいな。

…いや、私は人斬ったんだから地獄だね、多分。


お葬式の後、日常が戻ったら。

近藤局長は、お妙さんをストーキングして。

土方副長は、煙草とマヨネーズを大量摂取。

沖田一番隊長は…土方さん抹殺計画を考えてる。

永倉二番隊長達は真面目だから、ちゃんと仕事してる筈。

あ…でも原田さんは危ういな。

監察の山崎さんは…ミントンとカバティ頑張ってるかな。


私一人死んだ所で、日常は変わりないんだろう。

少しだけ、淋しい。




さんッ起きてくだせェ!」




(此処は、病院、かな?耳元で叫んでるのは、多分沖田さん)

…嗚呼、耳を澄ませばみんなの声が在る。

きっと死ぬんだろうな。



生きたい、生きたい、生きたい、生きたい。

逝きたい、逝きたい、逝きたい、逝きたい。


わたしのこころは、どちらへかたむいているのですか?

みなさんは、いつまでもおもっていてくれますか?



恋とはまた違った思い。

あなた方も、持ってくれていましたか?




、死ぬなァァ!!!」


















こんなにも、近くにいるのに








どんなにんでも届かない
(鳴り響いた、心配停止のサイン)




(090707)