「デイダラさーん」
「・・」
「デイダラせんぱーい」
「・・・・」

 鈴の鳴るような声色が、その持ち主である少女と、先刻から一言も話すことの無い青年の二人しかいない部屋に響いた。何度も、繰り返し話しかけるその少女、であったが、返事が返されることは無く。しばらくの間諦めずに名前を呼ぶと、もういいと言わんばかりに、遂にも拗ねて口を開かないようになって。二人の間に、沈黙が降りる。そこでは、ただ時計が時を刻む音が静けさの中にあった。
 デイダラ、と呼ばれていた青年も、流石にその静かさには嫌気が差した。弄っていた粘土を、わざと乱暴に机へと置くと、何も物を言わなくなったの座るソファを振り返った。おい。短く、声を掛けるが沈黙。返事をしろよ、――今度は、が答えを返さなかった。ふい、と顔ごとデイダラから背け、苦無や手裏剣といった忍具の手入れをしている。先輩が声を掛けているのだから、返事ぐらいしろよ、と声には出さず心中で悪態を吐くと、デイダラもまたつまらない意地を張って、また向き直り、粘土に触れた。互いに何も言い出さず、言い出せず、時が経っていく。
 二人は、たまたま休みが重なった。各それぞれの組んでいる相手はと言うと、たまたま単独任務で。アジトへ援護要請が来た時、離れた場所へ居ては連絡し辛いのでなるべく一緒に居ろと言われ、とデイダラは渋面のままに了承したのだった。無論、仲の良いとは言えない二人にとって、二人きりなど好ましくない。居心地は、悪くなる一方だった。
 ふと、忍具の手入れをしていたが、あ、と小さな声を漏らした。気になって、デイダラが振り返ると、どうやら苦無の刃を研いでいた時に指を切ったらしいが自分の指先を見つめている。微量の赤が、その指先を伝っていた。すると、デイダラの視線に気付いて、が眉間に皺を寄せ、口を開いた。

「・・何ですかー・・・こっち見ないでくれませ、っぶふ」
「はっ!いい気味だぜ、うん」

 不満げに言ったの顔面にデイダラの投げた手拭いが衝突した。広がっていれば、それほど衝撃の無いそれだったが、丸め込まれていた為にそれなりの威力を伴ったのだ。
 額に青筋を浮かべるは、何かに気付いたような表情をすると、あれ、と首を傾げた。デイダラさん、と既に自分の作業に戻っていた彼を呼んだ。何で手拭いをくれるんですか、と少し不審そうに問いかける。すると、あのなあ、と呆れた風に、言葉が返ってきた。

「オイラは、苦無は血に濡れたままじゃ錆びるから拭け、って意味でそれを渡したんだ。・・指の方はどうなろうと知らねえよ」
「・・・そうですかー」
「ふんっ」

 デイダラは、そう言って鼻を鳴らしたくせに、が手拭いを千切って指に巻いても咎めなかった。





magnet
引き合うか、退け合うか




(100215)