刀を抜き、切っ先を前に向け、鞘を放り投げる。
今は倒すべき人になってしまったあなたに私は恋焦がれていた。昔から、ずっと。攘夷なんて馬鹿げてるかもしれない(実際、私はそれに興味が無かった)けど、それでも喧嘩が好きだから攘夷戦争に参加した。寺子屋からの付き合いだったが、たぶん惚れたのは戦場だったと思う。今でもあなたの勇姿は忘れていない。
意識を今に集中する。金属同士がぶつかり合う音と同時に近くに映る隻眼(片方は、あのとき失ったのだろう)は獣の其れで、恐怖か歓喜かは分からないが体中に悪寒が走った。男女の差は埋めようがなく、力では敵わない。交じり合う刃に力を込め、弾く反動で後ろに跳ぶ。あなたは目を細め、心底楽しそうに、くつくつと喉を鳴らした。頬に小さな痛みがある。退く瞬間、切られていたようだ。浅いので心配ないだろう。
「強くなった、なぁ?」
「あんたは枷を解かれた獣だよ」
「…違いねぇ!」
再び金属音が辺りに響く。
脳裏に過ぎるのは、銀時達も一緒に居た…昔の稽古。竹刀でやってたのだが互いに力加減が出来なくなって何本か駄目にしてしまい、怒った桂に長時間説教された。これからは木刀でやれ、と言われたんだっけ。あぁ、懐かしい。あの頃はただの稽古だったけれど、今は本当の殺し合い。殺しに行かないと殺される。刃が私の方を掠った。血が出ても気にしない。気にしたら駄目だ。そっちに気を取られたら隙が生じる。
死ぬわけにはいかない。
「なのにあんたになら殺されてもいいと囁く自分も在る」
「ほお…じゃあ大人しく殺されるんだな」
「あんたと共に、笑って居たかった」
「奇遇だな、俺もだ。けどな、」
―――血は、戦は人を狂わせちまうんだよ。
俺達が攘夷戦争が無ければ…否、大切な"あの人"を失わければ。
そう言う貴方の目は、分からない。違うだろ、と私の口が勝手に動く。それを理由に、あんたはただ暴れているだけだ!――叫んで、息を切らした。出血と疲労で頭がぼーっとする。瞼が重い。違う…違うんだよ。攘夷戦争が無ければ、私はあんたに惚れなかった。苦しまずに済んだ。ただの友達として在れた。…殺し合いなんてしなくてよかった。
「でもそれじゃあ、足りないんだよ…ッ」
「知ってるか?。其れを渇きって言うんだぜ。俺と同じだ」
「違ぇ!これは、恋しいってんだ!!」
誰かを愛したいんだ、と言うと言葉を噤む。意識が遠退いた。殺し合いの最中に告白なんざ、可笑しい。次に起きる時は、黄泉か病室か。
賭けといこうや…高杉、晋助。
見えるは、戦場にて
( まみえるは、いくさばにて )
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