うろうろ。
 そう、はある部屋の前をうろうろしている。行ったり来たり、入ろうか止めようか。部屋の主、イタチはというと、そんな彼女に遂に痺れを切らして、「何か用か」と扉を開いた。すると、は少し驚いたような顔をして、それから「えー」とか「あー」とか言葉にならない言葉を並べると、腕を視線の高さまで持ち上げ、手を広げた。
 その女独特の細い指の掌の上には、彼女がいつも髪を結っていた紙紐が、何本かに切り分かれていて。どうしたのかとイタチが問うてやると、それに不満気な顔をし、デイダラさんが、と。忌々しそうにその名を口にすると、それっきり黙った。の髪が珍しく下ろしてあったのだが、それは単なる気分の問題かと思っていたイタチ。金髪の、組織のメンバーの顔を頭の片隅で思い出しながら、はあ、とイタチは深く息を吐いた。

「・・髪紐が無いのか?他は?」
「ありましたけど、毎日切られるので底を尽きました」
「全く・・・あいつは・・で、何故俺に?切った本人は?」
「イタチさんに貰えって。で、来ました」

 またもう一度、深く溜息を吐くと、分かった、と小さく頷き、部屋の中へと入っていくイタチ。は、特に止められもしなかったのでその後ろを付いて行った。
 中は、男にしては片付いていて―もっとも、デイダラやサソリと比べて、だが―というより、何も無い殺風景な部屋だった。あるのは、机に椅子、本棚とベット。このアジトは山奥の横穴に作ったものなので、勿論窓などなく、部屋に日光が差さない為、昼でも暗い。こんな中、蝋燭の僅かな火のみで本でも読むのだろうか。は、少し首を傾げた。
 イタチは、机の引き出しを開けると、中から紙紐を取り出し、不思議そうに部屋を見回すに視線を移した。

「イタチさん、こんな薄暗い部屋で本を読めるんですか?隣、飛段さんと鬼鮫さんですけど五月蝿くないですかー?」
「・・質問は一つにしろ」
「じゃあ、薄暗い部屋で本を読めるんですかー?」
「ああ」
「どんな本を?」

 興味深げに問うたに、質問は一つだけだ、とイタチは言うとそそくさと部屋を後にしてしまう。慌ててその後を追うと、何処に行くのかとは聞いた。答えは、任務。どうやら、丁度任務に発つ直前に、は部屋にやって来ていたらしい。
 そして、薄暗い蝋燭のみが照らす中に、日の光が差し込む場所が視界に入ってきた。岩と岩の間。そこが、出入り口だ。そこには、既に大きな人影があり。その人物は背中に大きなものを担いでいて、背も高い。おそらく、鬼鮫だろう。行きましょうか、と声を掛けてきた鬼鮫に、イタチは無言で頷くと。。そう、一言で呼んだ。髪紐を指に絡め、手で近付いてきたの髪を梳く。さらさら。流れる髪を、その髪紐で一つにまとめ、結ぶと、また何も言わず鬼鮫の隣に並び、背を向けた。
 礼の言葉をが言うより先に、イタチが顔だけ半分振り返り、口を開く。

「デイダラのお陰で、髪まで不揃いになっているぞ。帰ったら、揃えてやる・・」
「え、ああ・・・御願いします」

 言うだけ言うと消えた気配に、は聞こえているのか定かではないが言葉を返しておいた。手で、自身の髪を触ってみる。すると、イタチの言う通り、とても目立つという訳ではないが、気になる程度の揃っていない髪の先。デイダラの苦無が、切ってしまっていたようだ。
 髪を切る、なんてことも出来るのか。は、心中で呟くと、とにかく色々と大切なものを切ってくれた先輩の元へと向かった。





私だけのためにお願いします




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