「元親さん溢し過ぎです!えっと・・ティッシュティッシュ」
「悪い、・・・でもこれ美味いな!南蛮料理か?」
「元親さんのそれはペペロンチーノですね。私のはトマトパスタです。南蛮というか、イタリアですよ」
「へえ・・」

 私の言葉に頷きながらもペペロンチーノを口に運ぶ手を止めようとはしない元親さん。彼のその様子を見る限り、美味しいとは思ってくれているのだろう。私の味覚で選んだ店だったので、彼に気に入ってもらえて本当に良かった。私はマイペースにゆっくり食べていたが、元親さんはというと私が半分も食べ終えていない内に完食してしまう。彼はどうやらまだ食べられるみたいなので、私が食べ終わるまでまた別のものを食べて貰っておいた。
 二十分位経った頃。昼食を食べ終わった私達は、イタリア料理の店を後にした。まずは二階の洋服フロアに行き、その後は日用品を買いに行こう。地下で私と元親さん、迷彩柄の彼三人分の食料品も買わなければならないし今日は荷物が多くなりそうだ。勿論、元親さんにも手伝ってもらう気だが。実は、彼に着いて来て貰った理由の一つだったりする。

「元親さん、紫が似合いますね」
「ん?そうか?悪い気はしねえな、好きな色だし」
「じゃあ取り敢えずこれと、これ。迷彩柄の人の分も買わないとなあ・・元親さん、選んできてくれますか?」
「おう」

 メンズファッションショップで、こんな大人買いをすることになるとは思わなかった。両手一杯に抱える私を見、愛想の良い店員さんが手を貸そうと近寄って来てくれる。助かるので、御好意に感謝させてもらった。
 少し待っていると、元親さんが四着ほど選んできてくれたらしい服を持ってきた。値段はそこそこ。まあ、これ位はするだろうと思っていたので然程衝撃はない。レジまで運び店員さんに渡す。かなりの量だったので、レジが出した会計に流石に一瞬目眩したような。先程の訂正だ。然程衝撃は、あった。主に財布に。
 紙袋に新品の服を畳んで入れて貰うと、「有難う御座いました」と愛想笑いをする店員さんに笑いを返しつつ、次は歯ブラシでも買いに行こうとドラッグストアへ行った。他にも必要な物があるかもしれないと、続いて雑貨屋へ。その後も、色んな店を梯子した。最後に行った地下の食料品売り場で袋に駆った物を詰める頃には、明らかにもしも私一人だったら持てなかったであろう程になっていた。

「元親さん、助かりました。有難う御座います」
「いいってことよ。俺は、あんたに世話になっている身だからな」
「はは!そうですね」
「それより、早く帰ってやろうぜ。あの忍、そろそろ起きるんじゃねえの?」

 停留所でバスを待っている間話をしていると、相変わらず少し変な単語を言った元親さん。冗談なのだろう。そう思いたかったが、なんだか嘘にも思えない。それってどういう、とそこまで言った時にタイミング悪くバスが私達の所へと停まった。エンジン音でよく聞こえなかったのだろう。元親さんが聞き返してきたが、「いいです」と首を振る。また後で聞こう。
 買い物袋を抱えながら数分バスに揺られ続けていると、やっと行きで乗ってきたバスの停留所に着いたので降りる。沢山の買い物袋は歩くのをしんどくさせたが、大分元親さんが負担してくれたためそこまでではない。しかし、この車道に出た途端ぱったりと喋らなくなった彼にやはり買い物袋を持たせてしまったのは少し悪かったか。
 そして私の住むマンションに着いた。自動ドアが開き、奥のの手動の扉のロックを数字のボタンを押して解除し、中へと入った。エレベーターに乗るのは二回目のはずだが、元親さんは未だ慣れないらしく独特の浮遊感を気持ち悪がっていた。階段で上がればよかった、と今更ながらに後悔する。

「・・ただいま、帰りましたー・・・迷彩柄の人、起きましたかー・・?」
「自分の家だろ?んな遠慮すんなよ!」
「元親さん!?怪我人が居るのにそんなずかずかと・・!」
「おーい起きてっ・・・か・・・・・」

 迷彩柄の彼が眠っている和室ではなく、リビングの扉を開けながら言った元親さんは、そのまま唖然と口を開いたまま硬直した。気にはなるが、彼の大きな図体の所為で私からはリビングが見えない。「どうしたんですか?」と彼を押し退け無理矢理リビングに入り、部屋の様子を視界に入れると。
 私も固まった。――迷彩柄の彼はどうやら目が覚めたらしく、和室から出て床に胡坐を掻いて座っていた。これは良い。寧ろ喜ばしいことである。そこじゃなかった。私と元親さんの見つめる先には、割れたベランダのガラスと、その上にうつ伏せになって倒れ込んでいる白髪の人。白と青紫の服の彼は微動だにしない。割れたガラスの破片が刺さってはいないかと心配したが、床は赤くないし、彼の服装はあまり露出していないようなので刺さっていたとしてもそんなに深くはない筈。顔面は保障出来ないが。(元親さんのあの服だったら重症だろうな、と少しずれたことをふと思った)

「っ大丈夫ですか!?・・・っていうか何処から・・」
「・・・・た・・な・・は・・・べえ?」
「元親さんと迷彩柄の人!すみませんが手伝ってくださいませんか!?」
「え?」
「・・ああ」

 取り敢えず安否を知るため駆け寄る。体を起こせば、うつ伏せになっていた顔が此方に向いた。白い髪色だったから、もしかしたら御年寄りかと思っていたが、露になったのは女の人かもしれないと疑わせるような端整な顔立ち。やはり頬等を少々切っていて、そこから少し血が流れていたが、白い肌にそれは良く映えた。しかし気になるのは、折角整った顔を隠すかのように付けたマスク。手当ての邪魔になるし、取ってしまおう。
 元親さんは、何故か渋面だったがガラスを掃除してくれたり救急箱を取りに行ってくれたりと動いてくれたが、迷彩柄の彼は先程から一向に此方を見ようともしない。いや、私が手伝ってくれないかと言った時には一言だけ漏らし、此方を一瞥したが。しかしそれも一瞬。私達に背を向けるようにしたままの彼の背中を、私は少し睨んだ。

「・・あの、迷彩柄の貴方。御名前位、教えて頂けません?」
「・・・・・・・・あんた、ここの家主?どっかのくのいちとかか?」
「質問返しですか。貴方、元親さんと違って対応能力低いんですね。彼、すぐに状況を理解してましたよ」
「質問に答えろ。何で鬼の旦那と豊臣の軍師が此処に居る?」
「俺は、自分の意思で此処に来た。が、少なくともてめえは、意思じゃないみてえだな」

 オレンジの明るい髪色に、友達が見れば黄色い声を上げそうな顔。頬には緑色のペイントがある。そんな彼が底冷えするような鋭い瞳で私を睨みながら問うたことに答えを返したのは、丁度リビングに入って来た元親さんだった。そして元親さんは私を目で見ながら、迷彩柄の彼に「こいつを責めるのはやめとけ」と言い、更に「簡単には帰れそうに無いぞ」と続ける。その言葉を聞いて反発するとばかり思っていたが、迷彩柄の彼は案外簡単に食い下がった。
 しかし信用はされていないらしく、私に向けて彼の言った言葉は好意的とは言えないもので。

「真田忍隊、猿飛佐助。言っておくけど、いざとなればあんたを殺してでも帰るからね」





三つ目のフンタジー
(三人とも個性が強過ぎるよ)








☆100426 やっと来たよ半兵衛喋ってないけど