「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「えっとあの・・ま、まず御名前を伺っても宜しいでしょうか?一部の方なら私はもう知ってますが・・・自己紹介もします?」

 めちゃくちゃ沈黙が痛い。三人が三人とも机を挟んで座りながら鋭い目付きをしていて、殺気らしきものを放っている。私の隣にいるのは元親さんで、向かいは猿飛さん。彼の横(まあつまり私の横でもあるが)にはつい先日ガラスの破片でサボテン状態になっていた白い人。所々絆創膏を付けたこの白い人に至っては、まだ一度も声を聞いていない。
 白い彼が我が家のガラスを通ってやって来てから、今日で四日が経った。彼が目を覚ましたのは今朝――つい先程のことであるのだが、その時からずっとこの調子である。

「・・・・・ッチ・・・」
「・・あは、は・・・・皆さんは御知り合いみたいですね・・・私はです・・あの、貴方は?」
「・・・・・・・・・・・・・竹中半兵衛」

 この人、怖過ぎ。いや、にっこりと微笑んではくれたが、目が笑っていなかった。しかも何だその間は。竹中さん、絶対渋々言ったんだろう。ちなみに猿飛さんはと言うと、私達がそういったやり取りをしている間ずっと笑顔を貼り付けていた。でもやはりこの人も目が笑ってない。何この人達。駄目だ、私にとってこの人達苦手な部類だ。
 私が、どうやってこの人達を落ち着かせようかとげんなりしていると、気を使ってくれたのか元親さんが猿飛さんと竹中さんに「元の場所には暫く帰れそうに無い」のだと懇切丁寧に説明してくれた。でも明らかにちゃんと納得してないな、この二人。頭が堅い。
 にしても、猿飛佐助か。言っちゃ悪いが、偽名っぽいな。為り切ってるのか?

「失礼だなあ。本名だってば、本名」
「・・・・・胡散臭い」
「・・っはは!信じてやれよ」

 少し空気が和らいだ。
 ふと、壁に掛かった時計に目を向けると針は昼前を差していた。・・・昼食、どうしよう。全く考えてない。私は「昼食作ってくるね」と三人に言うとキッチンに移動した。取り敢えず冷蔵庫を開いてみて、愕然とした。見事に使える物が何も無い。そういえば、昨日の夜にほとんど使ったんだっけ。忘れてた。
 仕方が無いので、冷凍庫を開いて適当に冷凍食品をレンジで解凍し、茶碗を四つ出して白米を盛る。これで我慢して貰おう。

「すいません、冷凍ですが・・・用意出来ました」
「おう。ありがとな、
「毒とか入ってない?これ。鬼の旦那、毒見してよ」
「また俺!?ここ数日毒見してやったけど一回も入ってなかっただろ!大丈夫だって」
「・・・・僕は遠慮する。昼に食べる必要は無いし、僕だけ毒が入ってても嫌だしね」

 猿飛さんは冗談交じりだったようだが、竹中さんは警戒心丸出し。口の端を持ち上げていたが、不適にしか見えないその笑い。竹中さんは私達に背を向け、彼が寝泊りしている和室の方へと歩いて行った。(そういえば、元親さんも猿飛さんも、初めて昼食を出した時不思議そうな顔をしていたが何故だろう)

「にしても、の料理は美味いな!冷凍って調理名はよく分かんねえが、味が良いから気にしない!」
「要するに私が殆ど手を加えてないってことですよ」
「いや、手抜きでこんだけ美味いのは凄いよ?っていうか何これ」
「?グラタンです。美味しいですよ?」
「ふうん」

 猿飛さんが指差したものは、ほかほかと湯気を立てるグラタンだった。一人一皿ずつ置いてあったのだが、未だ手をつけていないのは猿飛さんだけ。彼が此処に来る前に食べたことがあった元親さんは、気に入っていたらしくもう既に食べ終えていたりする。
 「ふうん」と猿飛さんは微妙な顔をすると、四日前に比べれば随分手馴れた手つきでスプーンにグラタンを載せると、それを机を挟んで正面にある私の口元に差し出した。

ちゃん、毒見してくれない?」
「ええ!?」

 私の口に触れるか触れないか位にある猿飛さんのスプーン。勿論グラタンは好きだ。だが流石にこれは躊躇われる。私にだって、恥じらい位あるし。でも、折角だから猿飛さんに食べて貰いたいしな。食べ物を残すのは勿体無い。
 戸惑っていると、隣の元親さんが眉を顰めながら口を開いた。

「はあ?何でこいつなんだよ!」
「だって鬼の旦那、毒見嫌なんでしょ?それに家主が一番怪しいし?俺様、職業柄警戒心が強いんで!」
「だから、大丈夫だって言ってんだろ?」
「俺達敵同士だぜ?信じるかっての」

 またもや不穏な空気に包まれていくリビング。ちらりと伺った隣の元親さんは猿飛さんの言い方が癇に障ったのか、みるみる目付きを厳しくしていく。私は、当然だと鼻を鳴らす猿飛さんが此方に差し出しているスプーンに目を落とした。空気が悪くなっていくのは耐えられないし、仕方が無い。
 ――ぱくり。
 私は猿飛さんのスプーンに載ったグラタンを口の中に入れた。少し冷めてしまっていて、温い気がする。元親さんは私を凝視しながら、驚いたように一定時間動きを停止させていた。猿飛さんも少々固まっていたが、スプーンを自身の皿に置くと途端に吹き出す。私は、恥ずかしさから二人に目を向けられなかった。

「ほ、本当にやっちゃうなんてさ!吃驚だよ!っはは!」
「ったくよ・・・てめえがやらせたんだろうが」
「うん、ごめんね?まあこれで毒は無いって分かったし!あはは!」
「・・・・美味しく食べて下さいね・・・私、片付けてきますから」

 呆れているのか項垂れる元親さんの溜息と猿飛さんの笑い声を聞きながら、私はキッチンに向かった。結構勇気を振り絞ったというのに、まさか大爆笑されるとは。キッチンで一人になって、羞恥と疲労がどっと押し寄せてくる。なんだか、すごく疲れた。
 運んできた竹中さんの分の昼食にラップをかけ、冷蔵庫にしまいながら、今頃和室で横になっているであろう彼について思案する。彼は起きて暫くしたら既に仮面を付けていた。いつの間に(実はすごく気になっている)。そういえば、すごく顔色が悪かったし、昼食を抜くのは良いことだとは思えない。
 さて、どうしたものか。





遊び半分、い半分
(まだまだ信用は)








☆100506 佐助、疑り深いです。ま、忍だし。ていうか半兵衛、まだ一言しか・・・