「あの、すいません。竹中さん、起きてますか?」
「僕は寝ている」
「ばっちり起きてるじゃないですか。晩御飯出来たんで、こっちに来て下さい」
「・・・・・食欲がないから、いい」

 僕は、この変なところの家主であるとやらの申し出を断ると、掛け布団に顔を埋めた。僕の布団の横に座る、彼女から食事の誘いを断るのは二回目だ。まあ、僕は今朝までずっと眠り続けていたから、暫く絶食をしているようなものだが。でも、食欲がないというのは嘘じゃなかった。むしろ、食べ物を見ると気分が悪くなるくらいだ。
 今朝起きて、四国の長宗我部元親や甲斐の忍から聞いた話によると、此処は自分達が住んでいる所から遠く離れた場所らしい。三人の中で唯一外に出た元親くんは、此処の人間が自分達と同じ日本語を話しているのが不思議な位に全てがかけ離れていたと言う。

「駄目ですよ、食べないと」
「要らない」
「竹中さん顔色悪いですし、ちゃんと食べなきゃ駄目です!」
「要らないと、言っている」

 僕は、少し声を荒げて言った。知らず知らずの内に睨んでしまっていたのか、くんは瞳を揺らすと僕から視線を逸らした。苛々している、と、それは自分でも分かっている。理由だって、至って簡単だ。
 僕には時間が無いのに、こんなところで思わぬ足止めをされていること。早くあの親友の下へ帰って、彼の天下のために策を練らなければならないと、いうのに。

「僕には余暇など・・・・っげほ、ごほっ・・ごほ」
「?竹中さん、風邪ですか?」
「っく・・・君は、彼らと夕餉を取っていろ。っ早く、部屋から出ていけ」
「え、あ、はい。分かりました。食事、置いておきますね」

 くんは僕のことが気になるようで、部屋を後にする前に一度此方に目を向けて此処から出て行った。彼女の背が見えなくなった後も暫く続いた、血を吐く咳。布団を汚すわけにはいかないので、僕は部屋の端にあった箱から数枚紙を引き抜くと、口元を拭った。
 にしても、彼女から渡されたこの衣服は、着物と違って首が絞まって苦しい。また着物に代えてもらおう。

「・・・・早く、帰りたいね」





帰宅
(ホームシック)








☆100516 半兵衛さんは、兎に角帰りたいみたいです