「やあやあ、我こそは桃太郎!鬼など退治してくれる!大人しく宝を渡せ!!・・・って、こんな感じかい?さん」
「莫迦者、その名で呼ぶな。今の私は犬のポチだ。ちなみに政宗はキジのタマ」
「・・・ツッコミ所がありすぎて何も言いたくねえ・・つうか何だこの胡散臭い面は」
「私とそなたは元親と顔見知りだからな。しかしあいつは阿呆だから、この位の変装で十分だろう」

 威勢よく鬼ヶ島に乗り込んだ三人と一匹。そう、の考えた「悪戯」とは元親の自慢の宝を強奪しに来てやろうと言う、犯罪紛いのものだった。でもなんだかんだで付き合う政宗や宗兵衛も人が良いのか何なのか。兎に角、達は今、鬼ヶ島の首領である元親の城の門前に居た。宗兵衛の叫び声を聞いて、門の奥に居るらしい妖怪達がざわついているらしい気配がした。しかし、なかなか向こうからの応答はなく。遂に痺れを切らした政宗が、門を力任せに蹴った。木で出来た門は、呆気なく壊れ、崩れ去る。それを見たはというと、呆れたように溜息を吐いてから「乱暴はいかんぞ」と少しずれた反応を示した。

「て、敵襲ー!!桃太郎と名乗る一味がアニキの大切な秘宝を奪いにきやがったぞー!!」
「何としてでも此処は通すんじゃね、・・え!?」
「Oh! sorry... 面が邪魔で視界が狭くてな」
「あちゃー・・天狗の兄さん手加減無しだねえ・・・仕方ない!いっちょ暴れてやるか!夢吉、行くぜ!」
「キキッ」

 宝を奪いに進入してきた不審者を迎撃するため、声を張り上げて指揮した元親の部下と思われる一体の妖怪だったが、所詮ただの雑魚でしかないらしい。その一体は、政宗におそらく先程崩壊した門からとったのであろう木片で、非情にも言葉を言い終わる間もなく地に伏せられていた。楽しそうに口笛を吹きながら、視界が狭いと言っている割には次々と妖怪達を蹴散らして行く政宗。そんなどんどん遠くなっていく彼の背中を見て宗兵衛は苦笑すると、肩に乗っている相棒に目を向けた。「封印解除だ」と言った宗兵衛へ返事をするかのように一鳴きし、夢吉は彼の方から飛び降りる。そして地に前足を着くと同時に、その可愛らしい小猿の風貌は一変した。政宗の身の丈よりも一回りほど大きくなり、あどけない団栗眼は飢えた獣のそれへとなって辺りを睨む。両腕は、勢いよく地面を叩き付け穴を作り、その破壊力を見せ付けた。

「よし!天狗の兄さんには負けられねえ!な、夢吉!」
「グルルル・・」

 いつもとは逆に、宗兵衛は夢吉の肩に乗るとそのまま凄まじい音を立てての前から走り去って行った。あの愛らしい小動物が、あんな風になるのかとは少し微妙な心境である。そこでふと気付く。辺りの敵は先程政宗が散々暴れ倒したことによって壊滅しているため楽だが、早く追い掛けないと新手が来てしまう。二人共進行速度が速いので、急いで追いかけたほうが良いだろう。が。
 ――面倒だ。そう呟こうとして、止めた。神経を集中させれば感じる、此処、鬼ヶ島に異様な速さで近付く妖気が一つ。実力者であると分かるほどの大きい妖気だが、近付くにつれ見知ったそれだと気付き緊張を解いた。先日知り合ったばかりだが、確か人間に使役されていた筈の彼。それが何故、こんな所に。問われれば、その答えは実に容易に推測出来よう。鬼ヶ島と言えば、退魔の職に就いている人間なら知らぬ者は居ないと言っても過言ではない程有名な妖怪達の徒党の根城。大方、何か大きな動きがないか偵察にでも来たのだろう。先日の松寿丸の式典で出会った、深緑の着物に明るい髪色をしていた好青年を思い出していると、丁度気配が目前に降り立った。

「!妖気を感じると思ったら。先日はどうも。山奥の廃れた神社の宮司、さん?再び貴方のような美人さんに会えて光栄ですよ、ってね」
「うむ・・上手く人に化けていたつもりだったのだがな」
「俺様、こう見えても希少な七又尻尾の化け猫なんで。鼻は利くんだよねえ」

 得意げに鼻を鳴らしながら言う化け猫(とはいえ人の姿だが)の佐助に、そうか、と面の奥で微笑む。それに機嫌を良くしたのか、「でしょ!」と佐助は笑った。やはり彼は偵察に来ていたらしいのだが、自分は単に遊びに来ただけだと言ったに敵意を無くしたらしく、折角だからと途中まで一緒に行動することとなった。
 佐助は、武田信玄という和尚に仕えている妖怪だ。とは言っても、武田信玄は大概の妖怪退治など一人でやってのけてしまうため、折角有能であるのに佐助のやることと言えば見て帰ってくるだけの偵察や、その寺の跡取りである弁丸のお守りしかないらしい。極稀には妖怪相手の仕事に同行させて貰えるのだが、戦いたい相手は全て武田信玄が滅してしまう。なので、相手と言えばただの雑魚しかいない。
 佐助の自己紹介は、段々とただの愚痴になっていた。しかしそれにも、は「それは辛かっただろうな」やら「私では耐え切れん」などと返している。そんな風に心配してくれるような温かな言葉を久しぶりに掛けられた佐助は「分かってくれる!?」と目を輝かせ、ますます口は止まりそうになくなっていった。実の事を言うと、は適当に相槌を打っているだけで、面に隠れた表情は微塵も労わっている様子など無かったのだが。やはり面は正解だったと、胡散臭いと言っていた政宗に対して優越感のような物を感じずにはいられなかった。

鬼の巣食う島

桃太郎に続くのは、猿と鴉と狐、加えて猫

100423//キジのふりをする鴉天狗、犬の振りをする狐。まさかの化け猫、佐助。もう一つのタイトル候補は「苦労性の猫」でした