「――つうワケで!桃太郎とかいう奴等に俺の大切な宝を根こそぎ奪っていかれたんだっ!」
「元親、人生とは山あり谷ありでこそ楽しいもの。そう悲観してはいけないよ」
「俺のcollectionも分けてやるから、な?」
「ちくしょおおおぉぉぉぉおお!!・・・お前らやっぱりいい奴だな・・!」
「・・・Ha」
顔面を涙でぐちゃぐちゃにしながら泣き付いてくる元親に、気まずそうに目を逸らした政宗。(その大事な宝を盗んだのは他でもない俺なんだけどな)苦笑した政宗に、はちらりと元親越しに視線を寄越してきた。どうやら政宗の考えたことを読み取ったらしく、声には出さず口だけを動かした。(気にするな。元々盗んだ物なのだから、人の子にやるくらい構わんだろう)
「・・・そんなもんか?」
「そんなものだ」
「?おい、二人で何の話だ?」
「いいや、なんでもないさ」
ふふっ、とはその薄く紅がかった唇を緩めて悪戯っぽく笑った。
「ったく、てめえらは昔っから俺のこと除け者にしやがって。・・・ん?そういやあ、お前ら一緒に居るのが多いな」
「確かに、元親の居る時は二人が多い。が、普段はそうでもないぞ?」
「まあ、俺が小十郎の小言に嫌気が差したら会いに行くって感じだな」
「っはは!要するに避難所じゃねえか!」
「それに今回に至っては、二人だけで来たわけではないしな」
元親の部下が部屋に入ってきた。すると、三人の前に置かれた御膳に次々と料理が運ばれてくる。元親の海好きもあり、内容は少々――というかかなり魚介類多めであった。よく見れば、あの舟盛りに調理されている魚は、鬼ヶ島へ来る前に通りかかった港町の市場に並べられていたものと似ている。
は、手前の皿に載せられていた焼き魚の、黒く焦げた尾を指で挟むとその焼き魚を頭から丸々ぱくりと口に入れた。大きさで言えば、丁度秋刀魚ほどである。するすると、その指で挟んでいた尾を口から引けば綺麗に骨だけが彼女の口から出てきた。「骨は食わねえのか」 不思議そうに元親が問う。ああ、これかとその骨を元の皿に載せ、は答えた。 「骨を食うと喉に刺さってしまうから止せと、宗兵衛に言われてな」「宗兵衛?」 誰のことなのか説明しろと、元親は黙々と食べ進めていた政宗に視線を送る。それに面倒臭げな溜息を漏らすと、政宗は刺身を運ぶ手を止めて言った。
「人間のガキだ。夕餉に川魚を食った時のことだろ?」
「そうだ。丸呑みをして見せたら面白い位に顔を真っ青にして慌てるものだから、私がいつものことだから大丈夫だと言えば、喉に刺さるかもしれないから、せめて骨は出せと」
「・・・・成程な。お前、また人間に関わったのか」
「それを其方が言うか。っふふ、この魚は何処の御仁がくれたのやら。どうせ人に化けて漁に出ているのだろう」
生のまま並べられていた小魚を、また一匹尾を指で摘んでは頭から食べる。はゆるりと口で弧を描き、白い歯をその間に覗かせながら笑った。温かな優しい笑みというよりは、艶かしく実に妖狐らしいものだった。
張り詰めた空気を纏っていた元親だったが、それは一瞬で崩れ落ちて先程の政宗と似た溜息を吐いた。そして「そういえば」と、これ以上その話を続ける気は彼に無いらしく、暫く振りの友人たちに是非見て欲しかった物を、部下に言って持って来させた。
元親の部下が持ってきたのは、一つの刀であった。柄、鍔、鞘、全てに美しい装飾がされていて名立たる名刀であるのだと見ただけで伝わってきた。
「なんでも、人間がこれで鬼の腕を切り落としたんだとよ。で、その人間が鬼の腕を持ち帰ってお偉いさんに献上しちまったから、別の鬼が取り返しに行った」
「Ah~ その腕のついでに刀も頂戴して来たわけだ。何でもかんでも盗ってくんのはよくねえぜ、鬼ヶ島の鬼?」
「忘れてねえって。自分の部下がそんな目にあって、黙ってられるかっての」
「Ha! I agree. そりゃそうだ」
「・・・・・ふむ、鬼切か。見たところ、妖刀の一種だな」
いつの間にやら刀を手に持ち、鞘から抜いてその刀身を露にしていた。時に一人納得したような声を漏らしながら、刀に刻まれていた「鬼切」の名を口に出した。彼女の言った「妖刀」という言葉に、元親は首を傾げる。はて、妖刀とは強い怨念が憑いてしまった物のことではなかったか。確かに自分の部下が一人、腕を切り落とされてはいるが、肝心の腕は既に取り返してくっついている。強い怨念というのも、特に無さそうなのだが。
元親がそう思ったことを感付いたのか、が口を開いた。
「名を付けるということは、ある意味自身の式神を作っているようなものだ。名を与えてやれば、何にでも魂や精霊のようなものが宿る。この刀に名を付けた者は、余程鬼を憎んでいるらしい」
「だろうな。でなきゃ、『鬼切』なんて物騒なnamingはしねえだろ」
「たとえ名刀であっても鬼を切るのは難しい。妖刀で間違いないな」
「・・・・じゃあ謎は解けた」
「はあ?何のだ?」
「この刀、倉庫に何回入れても勝手に出てくんだよ。で、棚から落ちてきたりな。俺の上に」
政宗は、の手の中の鬼切をただ無言で見つめると、取り敢えず彼女の手から奪って鞘に納めた。そして元親に向き直り、軽く息を吸う。
「だから何でもかんでも盗ってくんのはよくねえっつってんだよ!この馬鹿鬼!!言っとくが助けてやらねえからな!!」
「メシ食ったんだから一食の恩で助けろよ!」
「お前最悪だな!」
名前を呼んで魂を込めろ
全く、いずこで恨みを買ってきたのやら
100729//なんか、元親が馬鹿な人みたいになっちゃった