いつもの如く、三人は毛利家敷地内にある離れの、暖かい日が当たる縁側でまどろんでいた。そんな中、は、先程から何度も欠伸を漏らしては瞳も閉じかけている。
遂に耐え切れなくなったのか、は、隣で何やら難しげな書を読み耽っている元就に声を掛けた。
「元就、横になりたいので私に其方の膝を貸してくれ」
「断る!我は執務をやらねばならんのだ。そのような暇など、」
「そうかいそうかい。なら、俺がやってやるからてめえは部屋で引き篭もっとけ」
「引き篭・・っ!?」
元就は言葉を失うと、政宗に何か言い返そうと口を開きかけた。その時、がその横をすり抜けると、口に手を当て欠伸を噛み殺し、政宗の方へと崩れるようにして倒れた。政宗が慌てて受け止めると、の容姿は人型のそれから元の妖怪の姿へと変わっていて。大きさは、(尾を抜いて)畳一枚と少しくらい。
普段、滅多にこの姿にならない彼女がこんなにもあっさり人の姿を解いたことに、政宗は少し驚いたような反応を示す。それは、元就にも言えることだった。しかも(狐)は、もう既に瞳を閉じて熟睡してしまっていて。戸惑い気味に、元就は軽く彼女の頬を叩いくが、はうんともすんとも言わない。
「妖は普通、寝る必要はねえんだがな・・お前、こいつに無茶させてねえか?」
「・・・・昨日、妖退治の際に五重結界を三回、破魔の修法を十回、あとは鬼門封じに・・」
「Ah~ 分かった、もういい。無茶させたっつうのは分かった」
「そ、それは!が出来ると言った故、我は!!」
「いくらこいつでも、疲れる時は疲れんだよ」
う、と言葉に詰まる元就に、政宗は呆れ気味に溜息を吐く。そして眠るの顎下を優しく撫でながら「お前は執務があんだろ」と何か言いたげな表情の元就を離れからさっさと追い出した。
縁側から見える中庭は、流石毛利家と言わせるだけはあるといった感じの大層なものだった。流れる川のせせらぎの音や、時折聞こえる鳥の鳴き声は時をゆっくりに感じさせる。政宗は、己の膝で丸まっているに目を落とした。元の姿に戻ってしまうほど、彼女に力は残っていなかったらしい。まあ、人の姿になるには結構な力を使うから当たり前の事なのだろう。
同じ妖怪であるにも拘らず、政宗には、それが到底理解出来そうになかった。何故、たかが人間の命令などに従ってこんなに体力を消費しているのか。
自分だったら彼女に無理などさせない、疲労に気付いてやれるのに――
「俺の方が、お前とずっと前から居るのにな」
「・・・・ん」
政宗は、すっと目を細めて無表情に小さく呟く。変わらず瞳を閉じたままのは耳をぴくりと動かし声を漏らした。そして、丸まった状態だった狐の彼女はゆっくりと体を伸ばし、同時に徐々に人の姿へと変えていった。おそらく、眠ったことでこの姿になるための力が回復したのだろう。
間もなく、ちゃんと政宗に膝枕された状態となったは、心地良さそうに眠り始めた。自分を見上げてくる彼女の寝顔を、他に見るものも特に無い政宗は見つめた。
「You see happy. そんなに俺の膝枕は気持ち良いか?」
幸せそうだな。
そんなに政宗も押し殺すようにして笑うと、とても小さく誰にも聞こえないように、強いて言うならば自分に言い聞かせるようにして政宗は言った。
誰より前からいつまでも
ただお前だけを、愛してみせる
100611//政宗、一途だね