「お団子、ですか?」
「そ!でさでさ、千鶴ちゃんはどんなのがいーい?京都は一杯お店があるからねえ。みたらしでしょ、醤油、小豆餡、きな粉に胡麻!」
「は、はあ・・・・」
「一緒に行ければ店で相談出来るけど、出来ないから今聞いてるの」

 ボクの個人的なお勧めは餡団子かな、とにっこり笑ったさんに、綱道の娘であり二ヶ月ほど前から我ら新選組で預かっている雪村千鶴は困ったように笑うと、少し恥ずかしそうな素振りをしてから「きな粉でお願いします」と言った。恐らく、食い意地の張った娘だと思われるのでは、とでも考えているのだろう。
 正直俺は、この人達の会話自体どうでも良い。
 今俺達が居るのは、屯所の門の前だ。そして、二人に早く話を終えてもらわないと、今日の見廻りはさんの組と俺の組とですることになっているのでいつまで経っても此処を離れることが出来ないのである。「他には?」「あ、え・・・えと、無いです」「うっそー欲しいって顔に書いてるけど?」「ええ!?」 ――・・・いつまで話してれば気が済むんだ、こいつらは。
 いい加減待つのが煩わしく思えてきて、俺は溜息を吐くと急かすように「さん」と、その名を呼んだ。

「ん、じゃあそろそろ行こっか一君!ばいばーい、良い子にしてるんだよ!千鶴ちゃん」
「分かってます・・・というか、子供扱いしないで下さい!」

 この二ヶ月で、雪村のさんに対する態度もなかなかの物になった。今のように言い返せるのも、成長の証と言える。しかし、矢張り未だ忠治さんの方が幾分か上手なようで。拗ねたようにむっとした表情で反抗した彼女であったが、その状況を楽しんでいるかのように微笑むさんには、その態度は逆効果だった。


*


 やっと屯所を出て巡察を始めることが出来た。だが、今の俺達がしているのは、むしろ「美味しい甘味処探し」である。どうやら、今のさんにとっては浪士達の取り締まりよりも団子を選りすぐる方が重大任務らしい。
 はあ、と知らず知らずの内に俺の口から零れた溜息に、やっと京都の町並みから視線を移したさんが此方を見た。「今日はこれから冷え込むらしいよ?」 どうやら、俺が寒くて息を吐いたと思っているらしい。今朝も雪が降ってたしね、と続けると、さんは、先程まで子供のように表情をころころと引っ切り無しに変えていたとは思えない、落ち着き払っていた声音で言った。

 さんが元の調子を取り戻したのは先日、副長に一喝されたかららしい。「らしい」というのは、本人達から直接聞いたのではなくて人伝に聞いた話からである。詳しいことは知らないが、そのお陰で幾分か新選組内の澱んだ空気が元通りになったと感じているのは俺だけではないだろう。
 しかし、逆に言えばその様は異様だった。さんの纏っている空気が、まるで何事も無かったかのようなそれだったからである。山南さんとの妙にぎこちない関係も、妙なものだった。
 今の新選組は、何とも言えない変な緊張感に包まれていた。

「――ねえ、一君」
「?なんですか」
「雪ってどうやって出来るのかな」
「・・・はあ」

 俺はどうやら「何を言っているんだ」と言わんばかりの目で見ていたらしく、その視線に気付いたさんが「今朝千鶴ちゃんに聞かれてさ」と付け加えた。この二人がしている会話が子どもっぽく見える。そう思ったのがそのまま声に出てしまい、俺は「子どもか、あんたらは」と呟いてしまった。
 すると即座に「ええーっ」とさんが俺を非難するような声を上げた。「じゃあ分かるの、君はさあ」 先刻の雪村のようにさんが拗ねたような表情を浮かべてそう言った時。前方に左之お勧めの甘味処が見えてきて、拗ねた顔を嬉しそうに緩めると、さんは会話を勝手に打ち切って店に歩み寄って行った。

「此処にある団子の中で、一番人気のやつ十人前頂戴!」
「はいよ。ちょっと待っとき、今作ってくるから」
「・・・・・全く・・」

 俺の白い襟巻きに空から雪が降ってきて、少しだけ濡らすと薄っすら跡を作った。見上げた先の空は重々しい鉛色で、絶え間なく雪を降らし続けている。今日は冷え込むらしい、と、そういえばつい先程聞いたが本当だったのか。
 団子を待ちながらにこにこと満面の笑みを浮かべているその顔の頬は、寒さでか薄紅に染まっていた。

「あ、それでね。千鶴ちゃんにはこう言ったんだ」




雪は雲の欠片なんだ
我ながら昔の歌人みたいだよね





(101114 斉藤さん書き易いです)