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「っふふ・・・」
「・・・・忠司さん、何かあったのか?」
「分かる?そっか、一くん達は今朝居なかったもんね!実は千鶴ちゃんがさ・・・」
にやにやといじめっ子のような笑みを浮かべつつ、隣に座る斉藤に、今朝の千鶴の寝坊の話をしようとした忠司。のんびりと酒を注いだ御猪口を口に運びながら、総司も興味深そうに忠司の話に耳を傾けている。すると、忠司の向かいに座る千鶴が自身の失態を思い出してか、急激に頬まで紅潮させた。そして丁度、あの場に居合わせていた原田が、思い出し笑いをした。
夕暮れ時、新選組幹部達は一つの部屋で夕食をとっていた。普段は、監視されている身であるので一緒に食事をする事の無い千鶴だったが、今日は土方と山南が大阪に出張しているため特別に許されていた。というより、「面白そうだから」と忠司が無理矢理部屋から連れ出してきて、幹部達が仕方が無しに許可を出したという方が正しいが。
「そこでね、千鶴ちゃんったらボクと間違えて左之くんに大声で謝ったんだよ」
「松原さん・・・」
「あははは!千鶴ちゃん最高・・っていうか忠司さん、意地悪し過ぎちゃ駄目ですよ?」
「・・・それをお前が言うか、総司」
「寝坊であれだけ騒げる千鶴って、ある意味すげえよな!・・・って新八っつあん!?俺のメシとんなー!!」
「細かい事を気にする男は嫌われるぞ?平助!というわけで焼き魚頂き!」
どんどん騒がしくなっていく夕食を、唖然とした様子で見守る千鶴。忠司は両隣の斉藤と総司に今朝の千鶴の事や、この前注文したと言う新種の酒について楽しそうに語っており、永倉と平助は毎食事恒例食物争奪戦を繰り広げている。始めてこの光景を目にする千鶴は、どうすればいいのかと戸惑うしかすることがなかった。なんだか、皆がそれぞれ騒いでいて、自分だけ置いていかれてしまっているようにさえ感じてしまう。
どうすれば、と思わず口から溜息を漏らした千鶴に、永倉と箸で戦っていた平助が気付き声を上げた。
「どした千鶴?全然食べて無いじゃん!食べねえと大きくなれないぜ?」
「う、うん。じゃあ、頂きます・・・?」
平助に促されるようにして、礼儀正しく手を合わせた後食事を口に運ぶ千鶴。初めに白米を食べ、続いて鰯に梅干しの載っていた煮物を口に入れると、途端に目を輝かせた。
――美味しい!
鰯の煮汁の染み込み具合もさることながら、それに梅干しがとても合う。釜戸の火加減は難しいため、煮物にすると魚の身がくずれ易くなるのだが、これは全くその様に見えなかった。
思わず表情を綻ばせていたが、千鶴は、はっとして永倉と隣の平助を見た。頭上に疑問符を飛ばす二人に対し、千鶴の考えたことが分かったらしい総司がくすくすと笑った。
「安心しなよ、女の子のはとらないから。それより、それを作ったご本人に感想を言ってあげたら?」
「ご本人・・・えっと、この中・・ですよね?」
室内を見渡し、料理が上手そうな人を探す千鶴。先ず一番近くに居た平助、続いて原田、永倉。向かいの忠司と総司、最後の斉藤。強いて言うなら斉藤だろう、と思ったが、千鶴は首を傾げた。そういえば、夕方から暫く忠司を見かけなかった。なのでやる事も無く、千鶴は暇を持て余したのだ。
まさか、と忠司の方を見た千鶴。彼女の視線に、忠司は首を傾げながらにこりと笑った。その仕草に目を合わせていられなくなって目を逸らしつつ、「もしかして」と遠慮しながら言った。
「あれ?何で分かったの?君なら一くんって言うと思ったのに」
「夕方から、お姿を見かけなかったので」
「ふうん。あ、もしかしてボクが居なくて寂しかった?」
「っそそ、そんなんじゃないです!」
「・・・・・・・ボクは寂しかったのに」
俯き加減に加え憂いを帯びた瞳をした忠司に、千鶴は「うっ」と言葉を詰まらせる。そして彼女の隣に座っていた平助まで、何故か居心地悪そうだ。
ふう、と呆れたように溜息を吐き、原田が忠司を諌めるようにして言った。
「反応に困ってるだろ。その辺にしてやれよ、忠司さん」
「んも、左之くん何か反応してよ。あと一くんも!」
「・・・・反応している。心の中ではな」
「騒がしい夕食で悪いな、千鶴。毎回こんなもんだ」
「い、いえ・・」
思わず千鶴は、苦笑した。つくづく忠司は、演技派である。
独特の温かさが、広間を包んだ。と、その時、襖がそっと開かれ、真剣な眼差しの井上が顔を覗かせた。
「ちょっといいかい。大阪に出張している土方さんから連絡があった。山南さんが、負傷したそうだ」
温かさが、一気に冷たくなった。
氷りつく温かさ
零れ落ちやしないかと、怖くて怖くて
(100704 ここから先、シリアスが続きそうですね)